ALMOST WIPEOUT
SIDE 2 / Sub-Contents:
"上方の博徒" - 後半です。
前半から続くお話しです。
「振尾と若き肱川公」のお話。
始まり、始まり。


"上方の博徒" 2/2

KAMIGATA NO BAKUTO

殊のほか金魚を好む。
理由を聞かれれば、こう言う。
「救いたい掬われたくない。この他人の心を身勝手に決め込む輩には辟易している。
己が意思も知らず、勝手に掬いたがれば、それは人としての思い上がり。
同業でも、堅気でも、気持ちよさそうな目で。
俺を"救う"などと与太をゆうなら、
俺がまとめてやる。」
たとえ祭りの陽気を当てられた夜の町民でも、こちらを見ないように努めれば、若衆の活気も、其の男の周りで一度凪ぐ。金魚掬いを押し付けられた理由は、
金魚掬いとは関係ない。ただただ、上の連中に尾を振れず。
金も回せないから。息絶えた魚の死臭に滅入る。
(救われる必要なんかねぇよな)
組の仕事で稼ぐ金は
全て、我が食いよった。
この死にかけと同じ。
自分は、"金"でもなければ、
媚びる為の尾ひれもない。
暴力の為に。暴力の盾に。
次の鉄砲玉として、泳がされている。
振尾は、掬われない事を念頭に、誰よりも潔く生きたい。

当時、長浜港での夏祭りの際には酔った肱川守(ヒジカワノカミ)が夜店の金魚を手掴み。
当然、露天商いは激昂。大立ち回りとなる。振尾は素人を詰めるつもりで始めた喧嘩のはずが、肉の鈍器でゴチンゴッチン。
始まってしまう。
互いに殺すつもりで穿ち合い。
別の祭事に顔を出せば、松山祭でまたも金魚を手で掬おうとする巨木の野暮八。「この紙の強度を
信じられると思うか。」
とゆう荒唐無稽で入れてきたようで。続く言葉も、「掬えないから成り立つのなら、"金魚掬えない"と打ちかえろ。」
そうゆう塩梅だったと。
島の祭礼で度々に佐久間(肱川守の苗字)がとりだたされる。
男の特徴として挙げられるのが、「聞き馴染みのない難癖を展開しては、殴って締めてが器用な男。」
振尾は其の祭りでも稼働する佐久間屋の喧嘩をアテに一献やろうと企てていた。最早、すでに祭事出し物より派手に暴れる為か、喧嘩の途中でおひねりを取りに帰った阿呆もいた。殴る蹴るも一芸。
そんな事を考えていた。
声色を抑えた肱川公。
「蔵立ちの男。
そうだ。
お前おい。目を逸らすな。」
振尾は当主が顔の覚えに際立っていた事を不思議に思った。
災害が如く、暴力の気を
撒き散らす玉すだれ。
松山祭礼にちなんで、大きく作られた獅子舞は背を丸め縮こまる。
注目が来ないことが分かるのだろうか。獅子舞の脚部からは卑屈になったように「なぁ、もういいか」
諦め節が聞こえた。
「こい。」⸻夏祭りの人だかり。
離れた所では、草を踏む音しか。
港が遠くに見える。
肱川と振尾が並び立つ。
なんだって俺は化け物と事を構えなければいけないのか。さっさと謝って幕にする。その途端に耳に入る言葉に振尾は詰まる。「お前、将棋は打てるのか。」躊躇った理由は怖気ではない。
「博徒に打つかと尋ねますか。」
肱川に対して友好的な自分に悶えたからだ。
なにしろ眠らされる寸前まで殺気のこもった拳を塗りつけられている訳で。
喧嘩では殆ど甲乙がつかない二人。かくも男が深まるとこれ程にも"淡い"を許せなくなるらしい。笑いかけようと、殺し合おうと。次の日には、"どう殺るか"。腰についた後悔に血を巡らせて、出し抜くまでは、硬く立つというもの。祭りのざわめきは遠い。
肱川公は一つだけ置いて、
何も言わず。
そこで何か返したかどうか。
いやおそらくは、呆けた面持ちで。
また殴られた。と思いながら。
去り行く旦那の背中に声はかけなかった。整理のつかない感情を適当に。景色の中の港沿いの灯に背を向けていた。歩き始めていた。
今となれば、裸一貫で霊峰に向かうウツケがいれば、派手にコケにすると思うが、これが大袈裟ではない。大層な将棋盤。
薄氷のごとき自陣。
反省させられ続ける為の尾ひれか。
飛車角落ちの佐久間殿に対して完敗。悔しさどころか、闇市でも滅多にお目にかかることのない精巧に作られた朧細工を見たような。「悪かったな、俺の得意はこっちでな」勝利の喜びなどは皆無と見える。
こめかみを二つ指で指し、軽く押し付ける。依然として、肱川公の感情は読み取れない。
「振尾(フリビ)、お前が言う所の。『極道の本質は傍若無人、無頼の極みにこそあれば、無様に救いを求める盤面なら、そこで終わらす事が臨ましい』──だったよな。与太なら失せろと言いたい所だが、
俺はこれを好んでる。
……だが、俺は信じない。お前は一度死にかけて
誰の助けも借りられず。
己の死が"その"首に
手をかけた今際の際に尚、
其れが言えるか。
見せてみろや。」殴りつけるような言葉。
熱量計は要らない。
焼け焦げてしまう、と圧倒されながら。言葉を使わず問う。
いや、問うたつもりで。
真意を尋ねるように
眼光を示す振尾。
「一度持ち帰ってもいい故、話を聞け。よくよく考えろ。俺は必ず長浜港の利権を握る。
浜の連中を黙らせる腕力はある。
お前。
その死にたがりな打ち方。
向いてる。
なぁ振尾。そうまで美しく
『救われたくない』なら  お前は極道やめろ  死ぬ気でその嘘やってみろ。
振り飛車として危険に身を置きながら魑魅魍魎の肱川の川底から長浜を貫け。
……俺に、それを見せろ。」
かくして、振尾(フリビ)は
振飛(フリビ)として名を改めるに至る。
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確証なきに悪も、救いもないとな。
与太もここまで、お後はよろしゅう。
誰から聞いた聞かない言わない。
七ちゃんは悪い人達とは関わらずして、仕事は、確認してから進めるといいよ。ん。七ちゃん?

すふ、すふふふふふ
寝顔も可愛い。

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SIDE2SIDE
"上方の博徒" - 了